2019年度 総会・研究発表会

期 日  2019年6月22日(土)
会 場  横浜市立大学 理学系研究棟1階 生命環境実習室
      (京浜急行 金沢八景駅下車 徒歩5分)

 

受付       13:30~
講演会      14:00~15:00
総会           15:00~15:30
研究発表会    15:30~17:40

懇親会         17:50~19:30

 

 

 

講演会

時間   14:00~15:00

場所  総会会場(横浜市立大学 理学系研究棟 1階 生命環境実習室)

講師  廣瀬 咲子 先生

   農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門 研究専門員 

  (元SIP新たな育種体系の確立「ゲノム編集技術の普及と高度化」コンソーシアム代表)
 

演題  農作物育種にも利用できるゲノム編集ってどんな技術?
 

 

 

(要旨) ゲノム中の狙った遺伝子配列をピンポイントで正確に切断するゲノム編集技術は,ライフサイ エンス研究者なら比較的容易に使える CRISPR/Cas9の登場により,世界中で競って使われ,急 速にその技術が進歩している.農業分野においても,育種の迅速化や新たな作物等の開発に使え る技術として期待されており,内閣府による府省連携プロジェクト(SIP)では,海外の基盤技 術に対抗できるような画期的な国産のゲノム編集技術を開発してきた.また,この技術を活用し てこれまでに無かった画期的な作物をゲノム編集で創り出し,商品化につなげようというプロジ ェクトも進められている.しかし,一方で消費者からは,ゲノム編集作物は遺伝子組換え作物と はどこが違うのか?技術のユーザーからは,ゲノム編集技術の基本特許は海外にあり,莫大なラ イセンス料がかかるらしい,といった懸念も増加している. 今回の講演では,まずはゲノム編集とはどんな技術なのか?どうやったら狙った遺伝子配列を 切断して,変異を作り出せるのか?について少し詳しく解説し,さらに農業分野での活用につい て,育種(品種改良)が従来どのように行われてきたのか?ゲノム編集技術を利用すればどんな ことができるのかという夢を語り,最後に少し,ゲノム編集作物(食品等)の商品化にあたって の問題点等について,ご紹介したいと思う.

 

 

 

研究発表会プログラム

 

 研究発表 15:30~(発表15分 質疑5分)
 
 
15:30~16:30
 
(1) 理科教師 今日の一品 -身近なものからサイエンスへ-
   苗川 博史(東京農業大学)
 このたび,「理科教師 今日の一品」-身近なものからサイエンスへ(苗川博史著,世音社,¥1620)を出版した.本書は,東京農業大学教職課程「理科教育法」授業の導入および実験観察において取り入れたもの,また学生たちが模擬授業で作成した教材の中から,さらには旅先で見かけた教材となりうるものの中から,身の回りの身近なサイエンスの現象や面白さ,不思議さを「今日の一品」として71編にまとめたもので構成されている.

 本題名の「今日の一品」は,授業において優れた教材となりうるものを意味しており,料理のアラカルトとは区別して用いている.「今日の一品」を導入する授業は,何も大学に限ったことではなく,初等・中等教育の授業においても児童・生徒に通用する教育方法ないしは技術として,方法を「現場に合わせる」精神で多くの方々が教育現場で取り入れ,活用または応用できうるものと考えている.

 

 

 

 

(2) 「植物の生活場所とからだのつくり」を系統的に学習する方法

    石塚 悟史(神奈川県教育委員会教育局指導部高校教育課)

 この内容は,中等教育学校に勤務していた際の授業実践を基にした.前期課程(中学校相当)の生徒を対象に,「植物の分類」について,より深い学びを実現するために,藻類(五界説では植物には含まない),コケ植物,シダ植物,裸子植物,被子植物のそれぞれの特徴について,生活場所とからだのつくりから,どのような関係性を見いだすことができるか考察させる取組を実施した.授業展開の方法には,様々あると考えられるが,生徒同士が主体的に取り組むことができるような工夫を施し,対話を通じて,個々の学びが深まるような授業を展開した.知識定着型の展開になり易いといわれる単元について,植物の「共通性」と「多様性」を理解させつつ取り組んだ実践でもある.なお,生徒の発達段階に応じた課題の提示が必要であり,高等学校の「生物」でも応用できるものと考えている.

 

 


 
(3) 生物多様性と生態系サービスを指標とした BESマップの作製 

   横山 一郎○(湘南学園中学校高等学校・横浜国立大学院環境情報学府)

   小池 文人(横浜国立大学院環境情報学府)
  BES(Biodiversity and Ecosystem Services)は,生物多様性と環境経済学の視点を含む生態系サービスとを一体化した概念である.本研究では,生物多様性と生態系サービスを地図上に示したものをBESマップと呼ぶ.BESマップは,フィールドで利用でき,植生,遷移,生態系の保全,生態系サービスの概念を学習できる.また,生物多様性について「気づき」を含めた体験的理解ができ,SDGsの視点などからフィールドのBESを評価できる.さらに,高等学校生物基礎における探究活動や,総合的学習の時間にも活用できる可能性があり,純粋な生態学的視点以外の問題,例えば研究と人間・企業・社会の関わり,ステークホルダーの視点,経済的価値,企業や政策の意思決定などを重層的に考える教材でもある.本研究では,生物基礎における生物多様性と生態系サービスの関係の概念を整理し,生物基礎の教科書におけるBESに関係する用語と植物名の分析を行った.分析から,用語はBESマップ作製上有効に活用できるが,植物名は有効活用できないことが示唆された.さらに,神奈川県三浦市の小網代の森を事例として作製したBESマップを示し,BESマップの活用を検討した.

 

 

 
休憩 16:30~16:40
 
16:40~17:40
(4) 小学 5年生のメダカの実験を大学 3年次で実施し見えてきたこと
    渡辺 克己(北里大学)
 筆者は川崎市内の小学校5年生に,理科でメダカについて,総合的学習の時間でイネについての授業を行っている.午前中の2・3 限,中休み(25 分)を挟んで2 単位時間(45 分✕2)の実験中心の体験に基づくアクティブラーニングの授業であり,いずれも児童には好評である.ほぼ同じ内容の授業を北里大学理学部3 年前期の理科教育法IIで実施したところ,多くの学生は初めて経験する内容であったと答えている.しかも,小学5年生と同じ場面に興味を示し,同じ現象に感動していた.この現状は理科教員を養成する立場にある者として由々しき状況であると認識した.そこで,メダカの授業の内容と,小学5 年生・大学3年生の反応について報告し,その結果から見えてきた理科教育の今日的状況について分析し課題解決の一助とすべき提案を行い,大学における理科教員養成上の課題について考察した.

 

 


 
(5) ケーススタディを通して「遺伝子診断を考える」連携型講座の実践

   井上 陽子(東京女子医大大学院)
  昨今,社会や生活の中で病気の診断・犯罪捜査・親子鑑定・品種鑑定・災害時の身元確認などさまざまな分野に遺伝子の解析技術が用いられている.しかし,多くの高校生は実際に実験により遺伝子を実感する機会がほとんどない.また,遺伝子に関する技術が将来,自分や自分を取り巻く人達にどのように役立つかについて正しく知る場もないのが現状である.
そこで,高校生を対象としてヒトのゲノムを用いた遺伝子解析の技術をまず実験により体験し,次にその技術が我々の生活とどのように関わっているかを医療面に焦点をあてて考える機会を作り,高校生物教員・大学の医学部教員及び病院スタッフ・患者と大学の教育学部の教員が連携して特別講座を実践した.今回は2回目に行った「遺伝子診断を考える」講座とその有用性について紹介する.
高校生のアンケート等から,本講座は遺伝子診断を正しく認識させることが可能で,正解のない課題についても考察を深めることができるものと示唆された.

 

 

 


 
(6) イシクラゲの応用 ピロール農法
   田中 雅彦(県立平塚農業高校)

3回目の報告になる.1回目はイシクラゲの生態と食材への応用,2回目は窒素吸収に伴う肥料化への試みを報告した.今回の3 回目は2回目の延長上にありますピーマンの無菌播種の影響とプランターによる栽培実験の結果報告である.イシクラゲを一緒に栽培すると以前の実験結果を実証するように著しく生長が促進された.後半はここ3 年ほどお付き合いさせていただいているピロールジャパンとの交流から感じること,農業への応用について新たな提言をする.イシクラゲにとどまらず,土壌中に含まれるシアノバクテリアを活性化させる農法である.

 

 

 

 

研究発表について

 

 

 研究発表は,会員1人につき1題発表できます。申し込み方法は「生物教育学雑誌」のタブから,「研究発表の申し込みと要旨の提出について」をダウンロードしてください。